しのびよる破壊 航空機エンジン(2)
NHKのこの番組は、IFSD率を取り上げないという意味で、エンジンの飛行中停止の問題を見る視点にゆがみが出ていると思うのです。
次の図は、米国の航空会社の例ですが、エンジンの飛行中停止率の推移を示したものです。縦軸は1000飛行時間につきIFSDがおきる回数を示しています。
これを見ても分かるように、IFSD率は1960年代から右肩下がりで下がり続けており、25年間で1桁下がっていることが分かります。信頼性を示す指標で1桁下がるというのは大変なことなのです。
タービンブレードは高温の燃焼ガスにさらされて、さらに遠心力による引張りの力を受けますから、クリープ破壊の危険があります。
このタービンブレードをコンプレッサーで圧縮された空気の一部を使って冷却するという発想は、ジェットエンジン開発の初期からありました。
1945年に初飛行に成功した日本初のジェットエンジンであるネ-20でも、タービンブレードに冷却用にエアーを吹きかけていました。
現在のジェットエンジンのタービンブレードでは、ブレードの内部に冷却空気を入れて、さらにたくみにあけられた穴から出たエアーがブレード表面をフィルムのように覆つて、ブレードを高温から守っています。
最近のエンジンに使われているタービンブレードは、ニッケルをベースにした耐熱合金で、鋳造で作られます。クリープ割れは結晶の境目(結晶粒界)にできることから、単結晶(ブレード1個がひとつの結晶でできている)のブレードが開発されて使われています。金属はたいてい、小さな結晶の粒の集合でできています(発泡スチロールの粒々を細かくしたものをイメージすると近い)。金属を少しでも学んだものにとって、これだけ複雑なものが「単結晶」でできていること自体驚異的なことです。
航空機や航空機用エンジンの安全性は急速な進歩を遂げています。「完全な安全」はありえないのです。「便利」の背後には危険がつきものです。安全技術の現在がどうなっているのかを、ショッキングな映像を何度も見せた興奮の中で、突く相手を探すような視点で問題にするのは、間違っていると思います。
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コメント
こんにちは。来週はいよいよ北海道です。見学会ではお世話になりますが、どうぞよろしくお願いします。
投稿: KADOTA | 2006年8月 4日 (金) 11時58分
KADOTAさん ようこそ
一昨日、札幌で開催されている「こども未来博」に行ってきました。メイン会場は「ロボット」だったのですが、実演時間が決まっていて動きを見ることができたのは限られていました。
東工大の「ヘビ型ロボット」は見ました。水の中をくねくね泳ぐ姿は、面白かったですね。
来週お目にかかれることを、楽しみにしています。
投稿: SUBAL | 2006年8月 4日 (金) 12時46分
IFSD率が25年間で1桁も低下したと言う事は素晴らしい技術的な成果だと感心致します。
しかしながら、素人考えでは、現今問題となるのは、急速にその数を増しつつある巨大出力エンジンのIFSDの問題なのではないかと考えます。
従って、この問題を論ずる為のグラフは、「横軸を離昇出力とし、年度又は、年度では事例が少ない場合には適当な長さの期間をパラメーターとして夫々の年度や期間毎にプロットマークの種類で区別したもの」とするのが良いのではないかと考えます。
投稿: 高千穂秀岳子(P.N.です) | 2009年5月14日 (木) 03時26分
高千穂秀岳子さん こんばんは
こちらは引越し前のブログでしたのでチェックが遅れました。
なんでもそうですが、パラメータをどのようにするかは、何を見たいかあるいは何を主張したいかによるもので、とんでもない見当はずれはあるかもしれませんが、どれが正しいというべき問題ではないでしょうね。
IFSDにエンジンの性能の要素を入れたいというのは、メーカー的な発想のように思います。
乗客の立場で言えば、100人乗りの飛行機か500人乗りの飛行機かという要素でIFSDを問題にしても仕方が無いように思います。
IFSDはエンジンの信頼性を表す指標ですが、信頼性のパラメータは基本的に時間ですがね。私が古いのかな?
投稿: SUBAL | 2009年5月17日 (日) 17時59分