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2007年5月17日 (木)

State of the art

本の紹介です。

Dhrw1_2 平川賢爾著「ドイツ高速鉄道脱線事故の真相」(慧文社刊)です。1998年6月3日にドイツのミューヘン・ハンブルグ間で起きたドイツ高速鉄道の脱線事故、101人の死者が出た大惨事になりました。この事故をめぐって、被害者への補償問題とは別に、ドイツ鉄道の技術者に対してその責任を問う裁判が開かれましたが、これに日本から専門鑑定員として参加した筆者が裁判の過程を明らかにすることによって、技術者の責任とは何かを問うている本です。

Dhrw2 事故の概要から、疲労破壊のメカニズムと実際、破壊力学と非破壊検査(超音波探傷)の限界まで、裁判で焦点となった点を明らかにしています。

そこで常に基準として問題にされているのが、State of the artです。日本語にすると「技術水準」です。鉄道技術者が当時のState of the artに沿う最善を尽くしたか、ここが技術者倫理であるというのです。

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このState of the artは、水準ですから無制限の責任ではありません。平川氏は、一つ一つ検証してゆきます。裁判の論戦、というところから来るのであろう「無理」を感じるところもありますが、論旨は実証的で明快です。

「被害者の代理人」として、「加害者」をバッシングするという視点とは、明らかに異なります。

超音波探傷に関する記述では、その表現で「技術水準」とするのは違う、というところもあります。しかし、エキスポランド事故に心を痛めている人にはぜひ読んでほしい1冊です。

私は、平川氏の展開に「全面賛同」とは言い切れない引っ掛かりを持っていまして、そのもやもやを整理してからこの本を紹介しようと思っていました。でも、明らかに高い水準での議論の出発点にはなる書物です。

平川氏は、ドイツ鉄道の技術者を擁護しました。私は、最善を尽くしてはいなかったとしても技術者に問うのはState of the artであるべきだと思います。

State of the art、日本語の「技術水準」からは読めないニュアンスを感じるのは、語学不足からでしょうか。

ドイツ高速鉄道脱線事故の真相―技術者の責任論から Book ドイツ高速鉄道脱線事故の真相―技術者の責任論から

著者:平川 賢爾
販売元:慧文社
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コメント

私のBLOGに鉄道のネタがこまごまと混ざってることも分かるように好きなんですが、それを外しても面白い本だと思います。
騒音抑制を主とする弾性車輪がネタだと思っていますが決してそれだけでないのでしょう。(日本はそこにはほとんど行かなかった。保守性能・耐久性能などの問題とPATが絡むからかな。路面電車と電気機関車(これは別の目的もある)に用いましたがいまや過去帖行きです。
さて、これ買ってみようかなと思います。最近技術鑑定という立場で私たちの同業者が「裁判」に立つことが出来るようになりました。(弁護士と同席)アメリカでは弁護士の代務が出来ます。事実そういう事例が3・4件あることを知っています。(結審まだ)以前は医師の診断書と同じ扱いの技術報告書というものだけでした。

趣味・業務の両面からこれは買いだなと思った一冊ですが、値段がねえ。いやそんな呪縛を振り切って買うべきかもしれません。教示感謝いたします。(はまりそうだって・・・いわれそう)

投稿: デハボ1000 | 2007年5月18日 (金) 12時43分

この本については、デハボ1000さんにぜひ書評をしてほしいですね。
鉄道・事故・技術者倫理です。期待しています。
ページ数の割には高いですが、損しないことは補償します。

投稿: SUBAL | 2007年5月18日 (金) 20時55分

The sate of the artの書評をいただき、感謝しています。評者が、まだもやもやしているとのことですが、ドイツ鉄道の技術者が過失責任を問われないと言う結審となった後、私は充分に弁護しましたが、犠牲者とその遺族そしてまだその後遺症で苦しんでいる方を考えるとき、私自身がもやもやと落ち着きません。The state of the artが万能ではないようです。その間の筆者の気持ちも本の述べてありますが、伝わらなかったのでしょうか。
ただ、別に米国の鉄道事故でも被告側の証人として喚問された経験がありますが、すべて私がState of the artにしたがって設計をしたかが問題でした。欧米では常識でしょうが、日本ではまだ完全には受け入れられていない言葉でしょう。

投稿: Kenji Hirakawa | 2007年5月19日 (土) 15時40分

Kenji Hirakawa さん ようこそ
筆者ご本人からのコメントをいただき、大変光栄です。
御著書の最後に書かれている、被害者の苦しみと自論のはざ間での葛藤については、技術に携わる者の覚悟として理解したつもりです。
私のもやもやは、現在のState of the artがどのあたりにあるのか、最新技術を学ぶ知るだけではわからないところがあるのではないか、というとろです。安全にかかわる技術は、ある確率でおきる危険は享受するという社会的な合意抜きには成立しません。
常にコストダウンの標的にされやすい検査屋にとっては、悩ましいことなのです。
私には、State of the artはそこに「ある」ものというだけではなく、「つくる」ものの側面があるように思えます。
破壊力学も非破壊検査も(おそらくどのような技術も)現在の限界、今できないことを明らかにすることが、State of the artを明確にしてゆくことにとって重要だと、御著書で学びました。
「できる」ことをアッピールすることはよくありますが、その限界は専門家の「常識」として表に出てこないことが多いと思います。

>欧米では常識でしょうが、日本ではまだ完全には受け入れられていない言葉でしょう。

日本での議論と理解が深まることを期待してやみません。

投稿: SUBAL | 2007年5月19日 (土) 19時18分

>ページ数の割には高いですが、損しないことは補償します。
検査入院から戻ってきたら(とほほ)、書店から入荷のメールが来ていたので引き取り読み始めております。平川さんの以前の勤務場所柄が尼崎に近いのもなんとなく因縁めいたものを感じます。(総合研究所の場所が財閥解体前の名前を引き継いだとみられる「尼崎市扶桑町1というのには動揺しました。FS台車なんて言葉を思い出したりして)
日本の交通における事故調査委員会とことなり、このような「予知可能な技術への責務(State of the artをこう約してみました)」に対する見解、欧州と日本とでは技術に対する評価方法が欧州らしい印象を受けました。(日本ではこの系統の台車は路面電車に使われたことがありますが量産に至っていませんね。)読後感は改めて。

投稿: デハボ1000 | 2007年5月23日 (水) 00時19分

お久しぶりです。
 先程、携帯電話でニュース記事を見ていたら、ジェットコースター事故について記事がありました。
 『今日国交省が纏めた調査で、車軸等の探傷検査を、設置以来一度もしていないコースターは全国72基にのぼった』と・・・。
 その理由も『(基準)を知らなかった』『問題無いと思っていた』等だったとの事。
 あくまで私の意見ですが、ユーザー側よりも、メーカの意識・責任感の低さの方が問題になると思います。
 私自身某機械メーカのサービス業務に携わる者として、ライフサイクル(○年○ヶ月毎に○○の工事・部品取替を実施する)を各顧客・ユーザーへ提案する事の必要性が、特に最近心に染みている事です。
 『メーカは、各機器・部品がどの位の周期・使用頻度で故障・破損するのか、知っている筈なのになぜ情報を出さないのか?』又は、『コストダウンの対象にされてしまう程、危険度のアピール度合いが低かったのではないか?』という事をよく考えさせられます。
 『各顧客・ユーザーの担当者は交代する事があるけれども、その機器・部品が納められている限りメーカは変わらない』わけですから、メーカとしての責任感がいかに重要か、もっと真剣にならないといけないですね。

 ちなみに経年機では、金属の肉厚調査の為に、渦流探傷検査や超音波厚さ測定を行う事があります。

 話が逸れますが、日本電磁測器という会社が、ハンドマグナのバッテリー式電源を発売したんですね。
 浸透探傷の様に、磁粉探傷がポータブルになって少し驚きです。

長々と偉そうな事書いてすいませんでした。

投稿: 大橋 泰治 | 2007年5月23日 (水) 23時18分

デハボ1000 さん
住友金属尼崎の超音波部門には知人がおります。そこで超音波探傷の研究をされている方から最初に超音波を「超音波探傷入門」(私が作ったソフトウエアを中心に作った本)で勉強をした、といわれてうれしかったことがあります。実は、教え子も入社して超音波をやっているとのことです。


大橋君
久しぶりだね。元気そうで何より。
今回の事故は、それぞれの立場で考えられることがあるように思えます。
メーカーが倒産している、ということも事故を未然に防ぐ歯止めの欠如の要因になったような気がします。
バッテリー式のハンドマグナは初耳でした。バッテリーの進歩でしょうね。永久磁石のハンドマグナは使いたくないと思いましたよ。

投稿: SUBAL | 2007年5月24日 (木) 01時40分

TBありがとうございました。私なりの考え方ですが、読後感を示すのは、平川先生に対して僭越とは思いましたが、自分の血とするべくあえてかかせていただきました。(連絡遅延ごめんなさい)
本日、技術士会の会合で、日本における交通事故鑑定の第一人者とお話したのですが、法廷における事故鑑定報告は、
(1)完全に***の技術的責任にある。
(2)この件とこの件はトレードオフ関係に有るため、明確に指摘することは出来ない。
(3)完全に***の技術的責任ではない。
の3つを明確にして以下理由を述べるそうです。あるいみ法廷というところの流儀はこの本のやり方に近いようだなと思いました。

投稿: デハボ1000 | 2007年6月 8日 (金) 22時47分

デハボ1000 さん
この本を評するには、自分の水準をさらけ出すしかなく、私にとってはしんどいのですが、でも浅学無知をさらけ出したとしても紹介したい本でした。
デハボ1000 さんの書評、なるほどと勉強になりました。
いろいろな人の話題になっていってほしいです。
新たな記事にしてみました。

投稿: SUBAL | 2007年6月 9日 (土) 14時03分

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» ドイツ高速鉄道の事故調査 [ある女子大教授の つぶやき]
ドイツ高速鉄道の事故調査 1.今から9年前の1998年6月3日に、ドイツのハンブルク市の南で列車が脱線転覆して死者101名、重軽傷者105名というドイツ国鉄始まって以来の大惨事が発生した。この事故の調査委員会にはドイツ国内だけではなく各国から数人の専門鑑定人が招かれて、事故原因の究明に当たった。専門鑑定人の1人であった平川教授が最近まとめられた本を手にしたので、その感想をまとめておく。 * 平川賢爾著:ドイツ高速鉄道脱線事故の真相 慧文社 4000円 * 略歴:京都大学工学部、住友金属工業株式... [続きを読む]

受信: 2007年5月19日 (土) 22時36分

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