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2007年6月13日 (水)

ボルトの超音波探傷

エキスポランドでの事故を受けて、全国の同様の施設について、点検が実施されたとされています。探傷検査を実施して「安全を確認できた」として運転が開始されているようです。

きちんとした検査が実施されたと信じたいものです。「磁粉探傷、浸透探傷、超音波探傷」のどれをやるのか、それぞれの方法についても何を基準にしてどのような方法で行うのか検討をされて、徹底されているのでしょうか。

漫然と探傷をしていても、危険の芽を事前につむことは出来ない、という例を。

Ut1 全長250mm、直径20mmのクロムモリブデン鋼のボルトを、5MHz・振動子直径10mmの探触子で軸方向に超音波を伝搬させて探傷した例です。

ねじを切ってある部分は25mmあり、探触子から5mmの位置にコッターピンを入れる穴が開いています。

今回の事故で疲労破壊したねじの谷の部分に疲労割れがあったとしたら検出できるでしょうか。

コッターピンがなくても、ねじ山が反射源となり割れからのエコーを受信していてもSN比(信号と雑音の比)が小さくなり、探傷は難しくなります。それでも数mmの割れであれば、健全なボルトとの比較をすることで、検出が可能になるでしょう。

このケースではコッターピンの穴があります。5mmからの反射波(エコー)は5の倍数の距離に多重反射の信号が表れます。この穴からの多重反射がノイズレベルを上げてSN比は極端の小さくなっているのがわかるでしょうか。割れを見つけるのはさらに困難です。

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しかも、ねじ部分の大半が近距離音場と呼ばれる音圧の分布が複雑で、探触子の寸法や周波数の少しの違いで同じ反射源でもエコーの高さが変わるところです。

磁粉探傷、浸透探傷でも、よく検討をしないとねじの谷部分の探傷は難しいのです。

特に転造ねじの場合は、谷の部分に割れと識別の難しい疑似模様が現れます。

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コメント

>今回の事故で疲労破壊したねじの谷の部分に疲労割れがあったとしたら検出できるでしょうか。

習熟しているマシンが異なったりすると検査の標準化は難しいですね。少しは触っている経験がある私でも多分見出せない。となると限度見本持ち回りによる校正をしなければ・・・と一瞬思ったのですが、つらつら思い出すにこれでも検出子の接合ノウハウもあり、難しいですね。
いずれにせよ、技能標準化の手法はもっと私たち(おこがましいが)技術者が確立していかないといけないという「使命感」をこの波形を見た段階で感じました。分かりやすくみんなに説明責任を果たすことも技術者の性だと信じていくべきでしょうね。

投稿: デハボ1000 | 2007年6月14日 (木) 02時30分

デハボ1000 さん こんばんは
報道写真を見ると、ここで示したような直接接触法で車軸の端面に探触子を当てて探傷しているものが堂々と掲載されているのですよ。(もっとひどいのはNHKの映像、車軸の側面に探触子を当ててラジアル方向に超音波を伝搬させている映像が映し出されました。やらせ映像としてもひどい、非破壊検査を知らなすぎます)
私の知っている検査会社は、この仕事の依頼は断っていると聞きました。このケースで調査費もつけないで(方法・手順・判定基準も明確ではない時点で)ただ検査をして、などという依頼では断るのが賢明かと思います。この件での十分なノウハウと機材を持っているところなら別ですが・・・・(以下自粛)
3日間の講習で「検査員」を仕立て上げて、点検をやらせようとしていますが、そういう制度にしてしまおうとしている人たち、わかっていない、と怒りをこめて思います。

投稿: SUBAL | 2007年6月14日 (木) 03時20分

超音波探傷について。
英国の2000年11月の高速鉄道脱線事故(Hatfieldで数名の死者と200名近い負傷者を出した)はレールの疲労破壊によるもので、レールが200個以上の破片となったことはよく知られていると思います。英国の技術者はこの破片を集めて、元の形に組み上げ、亀裂の進展状況を調査しました。彼らのレポートでは、たった200個の破片しか集められなかったことを、悔やんでいます。さて、レールの亀裂は定期的に超音波探傷によって検査されていましたが、レールの疲労亀裂は多数の亀裂が数mm間隔でレール表面から斜めに並んで発生しますので、その一つが深くまで進んでも、その上の亀裂が妨害して検出が難しいことがわかりました。この現象を英国の技術者は徹底的に研究し、超音波探傷の手法を改革しました。多くの超音波に携わる技術者の協力の賜物でした。
日本では、今回の事故を受けて、超音波に携わる技術者が何をしようとしているのでしょうか。単に避難・中傷をするだけでしょうか。

投稿: K.Hirakawa | 2007年6月14日 (木) 12時54分

K.Hirakawa さん こんばんは
>たった200個の破片しか集められなかったことを、悔やんでいます。
こういう感覚は、英国の伝統なのでしょうか。

不幸な事態が起きたときに、専門の垣根を取り払って協力すべきと思っています。
日本でも、過去起きた災害や事故の後、地道な研究、手法や機器の開発・改良が行われています。
今回の事故に関していえば、先日やっと破面の写真が公開されただけで、破損した軸の形状も材質も明らかになっていません。私のような失うもののないおっちょこちょいは別にして、この時点でものをいうのは慎重になるでしょう。
私の感覚では、日本で非破壊検査にかかわっている人にとって、遊具施設の検査はこれまでほとんど視野に入っていなかったと思います。
私は、この時点で1探触子の直接接触法・垂直探傷で、この軸のねじの谷にあるかもしれない疲労割れを検出するのは不可能であろうと判断しています。(でも報道写真にはその方法としか思えないものが写っています)超音波でやるとしたらPA(Phased Array)法を試す以外に私の知識範囲では思いつきませんが、これにしても十分な検証が必要でしょう。このことをいうことが、単なる非難でもなく、まして中傷になるとは考えていません。
今回の事故はまだ原因がわかっているわけではありません。非破壊検査技術者の出番は、原因の究明後になるように思います。
しかし、こうした事故に関して検査技術者は関心を持つべきだと思い、しつこく書き続けてきました。
近々、超音波探傷の研究者たちに会う機会がありますので、ご意見を伺ってみます。

投稿: SUBAL | 2007年6月14日 (木) 23時34分

再び超音波探傷について。
英国の技術者が、脱線事故現場からレールの破片を200個しか収拾できなかったことを悔やんでいるのは、やはり狩猟民族のあくなき探求心によるものではないでしょうか。ドイツ高速鉄道の脱線事故以後に、ドイツの非破壊検査の技術者達がインターネットを開設し、数百名の技術者が車輪の非破壊検査について議論していました。もちろん、中には国際会議並みのレベルの実験結果まで報告していました。もちろん、批評・非難・愚弄・ジョークも数多くありました。3年くらい続いたでしょうか。私も、この脱線事故で裁判にて非破壊検査について証言するに当たって、このブログは大変参考になり、彼らが見てると思うと大変緊張させられました。このブログもこのようなブログになってほしいと思います。ただ、ニックネームを使った仮面をつけた人の議論では限界がありますが。

投稿: K. Hirakawa | 2007年6月15日 (金) 10時36分

こんばんは,ご無沙汰しておりました。
このブログを見て同じような実験を試みている検査屋さんは多分沢山いるんだろうと僕は信じています。僕は諸事情によりまだ試すことが出来ずにいますが,来週あたり休憩時間を利用して考えているところを確かめてみます。ただ,増幅器の方式の違いやボルトのネジの谷底からの割れ方(螺旋と平行に割れるのか,軸に垂直に割れるのか)等,本来情報として蓄積しておくべきなのに分かっていないことも多いのが現状です。
なお,SUBALさんのこの実験では探触子を端面センターに当てていますが,「ビーム」のエネルギーを有効に使うなら探触子位置はずらすべきです。そうすることで逆にエネルギーの弱いビームエッジ側でつかまえたエコーは低くなり,かえってSN比は向上すると,自宅で空想しているのですが…。もちろんピン穴直下延長は探傷不能域となりますね。他にも空想していることがありますが,実験してからレポートします。ただしご承知のとおり僕の実験は,このブログでいう検査技術者のそれではなく,検査「技能者」としての簡易実験です。

投稿: niwatadumi | 2007年6月15日 (金) 21時57分

K. Hirakawaさん こんばんは
ドイツ高速鉄道の脱線事故の後に、非破壊検査技術者の間で、長期間に渡り多数の人が参加した、ネットを介した議論があったのですか。とてもうらやましい気がします。ドイツ語がわかれば参加してみたいです。
ドイツ人の技術者とも知己を得ましたので、今度会ったときにでも聞いてみようと思います。
ネットを通じた論議は、そのスピードと広がりに可能性が大いにあると思っていますが、同時に危うさもあって、慎重にならざるを得ません。
どのようにするのが良いのか、正直模索中です。
私が想像していたより多くの方が、このブログを読んでいただけているようです。
大それたことは考えていませんが、いろいろな見識を持った方に参加していただければ、面白い場にはなると思います。よろしくお願いいたします。

投稿: SUBAL | 2007年6月15日 (金) 22時48分

niwatadumi さん こんばんは
私は、1探触子を直接接触させる垂直探傷(オーソドックスな垂直探傷)では、このケースの疲労割れを数mmの段階で検出するのは無理であろうを判断しています。従ってその範囲での工夫には意欲がわかないのです。でも何かあるかもしれません。ぜひ、実験結果を教えてください。
その際に、ねじの谷から発生する疲労割れはどのようなものかはあらかじめ知っておく必要がありますね。そうでなければ、的がわからずに矢を射ることになります。
蛇足ながら、私はビームエッジという用語は好きではありません。超音波ビームに端など本来ないのにあたかもあるかのような誤解が生じやすいと思っています。ちゃんと理解して使う分には良いのですが・・・。

投稿: SUBAL | 2007年6月15日 (金) 23時10分

>もっとひどいのはNHKの映像、車軸の側面に探触子を当ててラジアル方向に超音波を伝搬させている映像が映し出されました。やらせ映像としてもひどい、非破壊検査を知らなすぎます

そうなんですよね。ところが、プレゼンテーション技能というより、文系の考え方の人にはこのような技術に対する検査の・・・以前に、技術というものの理解が出来ない人がどうしても生じるのということに気がつき私は慄然としております。
過日、某社の取締役総務部長・本庁のキャリア官僚・建設会社総務課長・銀行業界団体管理職・そして私というメンバーで飲んだとき、(私以外はバリバリの文系ですな)席上役人さんと銀行関係の人に私が相談されたのは「じつは、理系の専門職(当然自社以外の人も含む)が一生懸命説明しても、もうその成り立ちから典拠まで、ひいてはその中身を理解することが出来ない。もう一寸開設してくれと頼んでもますます深みに入ってしまい、分からなくなる。そのようなことを分かりやすく説明する能力がない人間に砕くように説明してくれるような人ってどうさがせばいいのかなあ」と言われ、絶句してしまいました。というのは、その人が技術に関する法案を起草・運用したり、システムに関する指示を傘下の法人にしてるわけなんですよね。かれが本当に困っているのはひしひしと伝わってるのですが、彼らに説明している人のランクを聞いてみると、優秀な技術コンサルだとか、大学の教授とか、まあ比較的に技量のあると思われる人たち。
勿論有る程度わかるという人もいて、(残りの2人は現場を見てる仕事をするから自分なりに分かってるつもりで仕事をしてるという)人的レベル差によるのは救いですが、このような人が法律的運用を「技術」にするしかないという現実を考えると、素質ということもありますが、たとえば額面だけ実質の分からない「検査」をさせるという指示を出す、官庁などの内部事情が感じられ、これでは本件のようなTVの画像を作ったり、的外れな検査業務計画を策定している現状が推察でき、酒はうまかったものの暗澹たる気持ちになりました。説明責任を果たす努力をしても理解できないという状態の中で、技術指針の運用をする現実に対し。(長文ごめんなさい)

投稿: デハボ1000 | 2007年6月16日 (土) 02時08分

文系の大学で教えている方から、学生の雰囲気として、「科学技術が社会を悪くしているので科学技術を捨てて自然回帰をするのが人類の進む道」と考える学生が多いのだと教えていただきました。
科学的な知識がない、という生易しい話ではないようです。
私は、素人と専門家の間を橋渡しをする「翻訳家」のような一群のプロが必要だと思っています。

投稿: SUBAL | 2007年6月16日 (土) 19時07分

この1ヶ月ほどで、非破壊検査に携わっている友人や先輩に会う機会がありました。この事故の件が大きく話題になることはありませんでしたが、私のほうから何人かの方にに問いかけてみました。
直接、ジェットコースターの車軸の検査に携わった人はいませんでした。
もし仕事としてきたら、同じ車軸をサンプルとしてもらうかそれが出来ない場合は、同等材質で同型の車軸を作り人工的に傷を入れて試験をするところからはじめる、というのは誰しも一致するところでした。その結果から、どの程度なら検出可能かを(手順書・要領書等で)示してから仕事をすることになる、ということです。それ抜きに直接探触子を当てて首をひねっているということは、ありえないことです。
ある検査会社の技術者は、「この条件なら、もちろんやって見なければわからないけれど、断面の半分とか1/3程度に進展した割れなら、検出可能だろうけれど、数ミリというところはどうかな・・・、小さな傷を見つけられますといよりは、ここまでは見逃しませんということのほうが大事なんですよね。」といっていました。私もほとんど同感です。
ボルトにフェイズドアレイの探触子を当てたら、ねじの谷に深さ1mm前後の疲労割れが偶然見つかった、という話もありました。ピンポイントで超音波をフォーカスする方法では、可能性がありますが、高価な装置で探傷するにはコストの壁があるでしょう。
私は、この軸に関しては、超音波探傷の可能性を云々するよりは、磁粉探傷を実施すべきと考えています。もちろんこれも、JISで認証されたレベル3技術者が実物で検討をして確実な手順書を作成してから、ということが前提です。

投稿: SUBAL | 2007年7月29日 (日) 09時05分

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» 40度の探触子 [袖ヶ浦在住非破壊検査屋]
公称屈折角45度の探触子に厚さ3mmのアクリルシューを貼りました。前のめりに2mm強,サンドペーパーで削って,目標屈折角40度。 母材厚さ80mm超の長手継ぎ手溶接部を探傷するときにJIS Z 3060-2002でやろうとすると,「公称」40度でやらないといけません。それでこんな細工をしているんです。 でも,40度の探触子なんてそうそう使うか?そういう板巻管を製造している現場では当然使うのでしょうが,正直言って僕は使ったことがありません。Z 3060-1988のころは40度なんて書いて...... [続きを読む]

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